新型コロナウィルスがもたらした経済危機をきっかけに、従業員の解雇問題が大きく注目されている。一般的に、外国人投資家は従業員の解雇についてイタリアの規制は会社側に不利だと考えているが、2012年の最初の重要な改革(いわゆる「フォルネロ改革(Riforma Fornero)」)以来、状況は好転した。そして、2014年にいわゆる「労働市場改革法(Job Act)」が施行され、状況はさらに改善している。

 

本稿では、(従業員の行為に関係しない)新型コロナウィルス危機後に起こり得る正当な客観的理由による解雇事案の主な側面を概観したい。

 

1.概説

イタリアの法律は、個人または集団に関する正当な客観的理由(イタリア語でgiustificato motivo oggettivo(略してg.m.o.))により会社が従業員を解雇する可能性を認めている。はじめに、正当な客観的理由の意味を考えてみよう。法的根拠は1966年の法律604号第3条にある。同条には、事業活動、業務組織およびその日常的機能を理由とする解雇が可能と書かれている。

 

以下に、正当な客観的理由の最も重要な事例を挙げる。

 

A)景況に起因する会社の危機

会社は危機が実際に存在することを立証しなければならない。例えば、収入の減少や発注の減少は、文書で立証できれば「g.m.o」による解雇に該当する理由である。危機の影響により、会社に当該労働者の地位を取り消す必要が生じなければならない。

 

B)事業活動の終了(会社の閉鎖)

この前提は、正当な客観的理由による解雇が合法とされる状況の一つと考えられ、イタリアの最高裁判所(Corte di Cassazione、イタリアの最高司法機関)は常にこれを認めている。会社が閉鎖された場合、雇用主は実際のところ全従業員を解雇するしかない。

 

C)当該労働者が任されていた業務がなくなった

従業員の業務の再配分を伴う組織再編による解雇は合法と考えられる。解雇の理由が業務の再配分である限り、雇用主は、会社が危機に瀕していなくても、会社の効率と生産性を高めるための組織再編を理由に従業員を解雇することができる。

 

重要:いわゆる「配置転換(repêchage)」を検討する義務(repêchageはイタリア労働法で使われるフランス語)。

この用語は、雇用主が解雇の前に、現在の業務と同レベル、場合によっては現在の業務より低いレベルの別の業務で当該労働者を使用できるか否かを検討する義務を指す。この検討を行うことは必須である。

 

実際に訴訟になった場合、裁判官は雇用主が配置転換を試みたかどうかを必ず確認する。当該労働者を別のポジションで使用できないことを雇用主が証明できれば、解雇は合法となる。よって、「配置転換」は解雇が完全に合法か否かを判断するための基本的要素である。

 

結論としてまとめると、一般に正当な客観的理由による解雇が完全に合法とされるためには、上記のA、B、Cのいずれかに該当し、かつ「配置転換」の義務を果たしたことを立証しなければならない。

 

2.一般的な手続き

次の2つのケースを検討する。

(1)個別解雇

(2)集団解雇

 

(1)個別解雇

これは、集団解雇手続きが適用されないすべての事案で発生する。すなわち、5人未満の労働者が120日以内に解雇されることを指す。

では、どのようにして従業員に解雇を伝えるのか。

 

– 会社は、従業員の勤務地の労働当局に、解雇を進める意思とその理由を記載した通知を送付しなければならない。次に、解雇について合意形成するために、会社と従業員の面談が行われる。

– 両当事者間で、雇用関係終了の回避、または同意に基づく解雇の合意が成立すれば手続きを完了できる。

– 合意形成されない場合、雇用主は解雇通告書による通知へと進むことができる。

 

(2)集団解雇

活動の縮小もしくは改編の結果として、または活動の閉鎖を計画する際に、従業員15人以上の会社が5人以上の労働者を120日以内に解雇しようとする場合がこれにあたる。解雇される労働者の人数5人を会社の当初の意向として示し、後日、これより少ない人数を解雇することも可能だが、いずれの場合も集団解雇手続きに従わなければならない。

集団解雇手続きには組合も参加する。組合は、会社が提示した理由が法的に有効であるかどうかを確認する。この手続きは個別解雇より複雑だが、会社が従業員数を大幅に削減したい場合や事業活動を終了したい場合には、最善の選択肢と考えられる。

 

このように、多数の従業員を同時に解雇するにあたって、会社は独自の手続きを踏まなければならない。解雇する従業員を決定するには、下記の要件を確認することが非常に重要である。

 

– 家庭の状況:家庭を持つ従業員より持たない従業員を解雇する方が容易である。

– 年齢:若手労働者の方が解雇しやすい。

– 経営上の必要性:この基準に注意を払うことが重要である。会社は、危機およびその後の再編により、特定のポジションが不要になることを立証しなければならない。

 

これらの基準を社内の全従業員に適用し、特定の部署に偏ってはならない。

 

解雇は細心の注意を要する問題であり、各ケースにはその解雇の性質によって特定の手続きが存在する。よって、会社がこうした問題に対処しなければならない場合は、適切な措置を講じるため、事案に適した専門家に相談することを強くお勧めする。